大判例

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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)65号 判決

原告

シエル石油株式会社

右代表者代表取締役

宮井仁之助

右訴訟代理人弁護士

吉川大二郎

外四名

原告

太陽石油株式会社

右代表者代表取締役

青木繁良

右訴訟代理人弁護士

沢田隆義

外三名

原告

出光興産株式会社

右代表者代表取締役

石田正実

右訴訟代理人弁護士

真子伝次

外四名

原告

昭和石油株式会社

右代表者代表取締役

永山時雄

右訴訟代理人弁護士

羽中田金一

外二名

原告

共同石油株式会社

右代表者代表取締役

森誓夫

右訴訟代理人弁護士

吉田太郎

外一名

原告

丸善石油株式会社

右代表者代表取締役

宮森和夫

右訴訟代理人弁護士

佐野隆雄

外二名

被告

公正取引委員会

右代表者委員長

高橋俊英

右指定代理人

秋田清夫

外三名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら

「被告が公正取引委員会昭和四九年(勧)第六号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反事件につき昭和四九年二月二二日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二、被告

(一)  本案前

原告らの訴をいずれも却下する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決

(二)  本案につき

主文と同旨の判決

第二、当事者の主張

一、原告ら

(一)  請求の原因

1 被告は昭和四九年二月五日原告らを含む石油製品の元売業者一二社に対し私的独占及び公正取引の確保に関する法律(以下独占禁止法という。)違反の行為があるとし、公正取引委員会昭和四九年(勧)第六号独占禁止法違反事件として、同法四八条一項により別紙(一)記載のとおりの勧告をし、原告らが右の勧告を応諾したところ、被告は同月二二日同条三項により別紙(二)記載のとおりの審決をし、原告らはその頃その審決書の謄本の送達を受けた。

2 しかしながら、右審決には以下に述べるような違法があるので取消を免れない。

(1) 応諾に関する瑕疵

(ⅰ) 応諾の無効

本件審決は被告の勧告に対し原告らのした応諾を前提とするものであるところ、原告らの応諾は無効である。すなわち、

原告らは、後記のとおりなんら独占禁止法違反の行為をしていなかつたので、本件勧告書の主文に記載された排除措置についてはもとより、その理由中に右の排除措置と無関係な幾多の独占禁止法違反の事実が摘示されていることにつき大いに不満があり、その応諾を拒否する意向であつたが、当時原告らを含む石油業界は一部心ない者の発言である諸悪の根源というような作られた社会的非難を受け、その対策に苦慮中であつて、勧告を拒否し正式審判手続によつて争うことは更に非難の増加を招くおそれがあり、また、通商産業省も早急の応諾を強く希望しており、他面、原告らは、従来の行政慣行から、本件勧告を応諾すれば、事件は平穏裡に落着し、これ以上の追求を受けることは絶無であると確信していたのみでなく、独占禁止法の専門家からもこれを裏付ける有力な助言があり、かつまた、国税犯則取締法一四条による通告処分を履行した者は同法一六条により刑事訴追を受けないこととなつている例もあることから、原告らは遂に本件応諾に踏み切つたのである。しかるに、被告は原告らが応諾した直後に同月一五日付をもつて本件勧告書記載の違反事実につき原告らを含む石油元売一二社及びその責任者に対し独占禁止法七三条により告発をしたのであつて、被告が敢えて告発をするなどということは原告らの夢想だにしなかつたところであり、従つて、被告が告発をするというのであれば、原告らは、本件勧告を応諾することなく、審判手続の開始を受け、あくまで違反事実の存在について抗争したはずである。被告は、この間の消息を知悉し、かつ、本件勧告前からすでに告発をする意図のもとに捜査を遂げていながら、原告らに対し殊更にこれを秘して勧告を試み、その応諾を得るや時を移さず、右の告発に及んだのである。

更に、原告らは、本件応諾にあたり、単に本件勧告書主文に記載された排除措置をとることを承諾したに過ぎず、その前提となる事実及び法令の適用までも認めたわけではなく、また、その周知徹底の方法につき自ら合理的と思料する文案に対し、当然被告の承認が得られるものと信じていたところ、被告は、原告らの承認申請に対し、これを拒否して、右の事実及び法令の適用を認める趣旨の文案を一方的に作成し、それ以外は一切承認しない旨を言明しているのであつて、このようなことは原告らの全く予期しなかつたところである。

そして、右の原告らの誤信は、被告においてこれを知悉していたものであるか、少くとも一般にこれを推測できたものといいうるから、原告らの本件応諾の意思表示は、その要素に錯誤があり、無効といわなければならない。

従つて、本件審決はその前提を欠くものとして違法である。

(ⅱ) 応諾の撤回

被告の勧告に対する応諾は勧告審決の確定に至るまで撤回しうるものである。すなわち、

独占禁止法四八条三項は被告に対し勧告と同趣旨の審決をなすべき義務を課しているわけではなく、応諾がなされたのち事情の変更により勧告と同趣旨の審決がなされない場合もありうるのであつて(例えば同法四九条参照)、被勧告人としては応諾したのち果して勧告と同趣旨の審決がなされるかどうか予想できないところであるから、右の審決を受けたのちこれに不服のときはいつでも応諾を撤回して争うことができるとするのが当然であり、また、勧告審決にあつては正式の審判手続による違反事実の認定が行われていないのであるから、被勧告人に自由な応諾の撤回を許し正式の審判手続による事実認定を受ける機会を与えるべきであつて、従つて、被勧告人は審決取消訴訟の事実審の口頭弁論終結時に至るまで自由に応諾を撤回することができるものと解すべきであるから、原告らは本訴において本件応諾を撤回する。

のみならず、原告らは、本件勧告書主文の第一項で「石油製品の販売価格の引上げに関する決定を破棄すること」とされた勧告事項につき、被告の承認のもとにその周知徹底の方法をとることを前提として、これを応諾したのであるが、その後被告に対し右の周知徹底の方法につき承認の申請をしたところ、被告は、これを拒否して、「石油製品の販売価格をそれぞれ引き上げることを決定し、実施したことが独占禁止法に違反するので破棄せよとの公正取引委員会の審決を受けました」との文案を示し、これ以外は一切承認しない旨を明らかにしているのであつて、右の「実施した」との部分は本件勧告の内容となつておらず、その範囲を逸脱したものであるから、原告らにおいて到底容認できないところであり、周知徹底の方法につき被告の承認を得られないことについて正当の事由があるものとして、原告らの右応諾の撤回が許さるべきであることは当然である。

従つて、本件審決は、結局その前提を欠くこととなり、違法といわなければならない。

(2) 審決に至る手続に関する瑕疵

(ⅰ) 勧告前の調査の不公正

被告が独占禁止法違反の行為があると認めて「適当な措置」をとるべきことを違反行為者に勧告するに当つては、右違反事実の認定につき、恣意、独断に陥ることなく、信義誠実の原則に従い十分な調査を尽くすべきであるところ、原告太陽石油株式会社が、被告の調査段階において資料を提出し、また、その事情聴取に際し、ジエツト燃料油の生産、販売を行つていないこと、揮発油はすべて原告シエル石油株式会社に対し日銀卸売物価指数に基づいた価格で販売していること及び他の油種についての値上げの時期、額は原告太陽石油株式会社の独自の計算に基づくものであることを主張したのにもかかわらず、被告は、右の弁明を無視し、十分な調査をすることなく、恣意、独断に基づき本件勧告に及んだものである。

従つて、本件審決は著しく手続的公正を欠くものとして違法といわなければならない。

(ⅱ) 勧告審決手続採用の違法

(イ) 正式審決の制度(独占禁止法五四条)は、同法違反の事実が複雑かつ重大でその影響するところが多方面に及ぶ場合や、被審人が違反事実を争う場合に、事件を審判手続に付し、公開の審判廷において被審人をして十分に防禦手段を尽くさせたのち証拠に基づき違反事実の存否を確定するものであつて、その審決は司法審査との関係においては第一審の裁判の機能を有するばかりでなく、その認定した違反事実は、実質的証拠の裏付がある限り実質上の第二審である東京高等裁判所を拘束するものであるのに対し、勧告審決の制度(同法四八条)は、違反事実が比較的軽微、明白であつて、勧告による排除措置が履行されれば法の目的とする秩序の維持が可能であると認められる場合に、違反行為者に対し一定の勧告をし、その応諾があれば、右の審判手続を経ることなく勧告と同趣旨の審決をすることにより、事件の簡易迅速な決着を意図するものである。

ところで、独占禁止法は、被告に対し告発の義務を課するとともに(同法七三条)、特定の違反事実に関する罪については右の告発を待つて論ずるものとしているが(同法九六条)、これは、違反事実が極めて重大で他に影響するところが大である場合とか、事案が悪質なものである場合等においては、正式審決により違反事実を認定してその排除措置を命ずるほか違反行為者に対し刑罰をもつて臨むのでなければ法の目的とする秩序の維持が困難であるとの考慮に基づくものにほかならず、このような制度の趣旨に鑑みれば、告発は重大または悪質な違反行為の存在が相当の確実性をもつて認められる場合に限り行われるべきものであることは当然である。

従つて、告発制度と勧告審決制度とは両立しえない相反する性格を有するものとして、その同時併用は許されず、換言すれば、被告において公共の利益を考慮し告発を敢行した以上、その対象とされている違反事実につき、正式審決の手続により被告発人をして十分な主張、立証を尽くさせたうえでその存否を確定すべきであり、勧告審決という簡易な手続を選び、被告発人から第一審的審判の機会を奪うことは到底許されないところである。

しかるに、前述のとおり被告は原告らを告発しながら、敢えて勧告審決の手続を採用しているのであるから、この点において、本件審決には、裁量権の範囲を逸脱し、または独占禁止法四九条の趣旨ないし憲法三一条の精神に反する違法がある。

(ロ) 独占禁止法以来今日に至るまで約三〇年の間になされた勧告審決はおそらく数百件に及ぶものと思われるところ、勧告を応諾した者に対し同一違反事実につき被告より告発がなされた例は一件も見当らないのであつて、このような被告の運用、取扱は行政慣行として定着しているものというべきであり、これは長年に亘つて反覆、継続的な慣行として集積されたものであつて、一般人は、国税犯則取締法一四条、一六条の例もあることから、右の取扱がなされることにつき法的確信を有するに至つていると認められるので、まさに慣習法となつているものといわなければならない。

仮に右の慣行が慣習法と認められないとしても、長年の間行政慣行として行われてきたものであるから、法的安定性を維持し、また、これを信頼した者を危殆に陥らしめないよう、これに従うのが条理にかなうものというべきである。

従つて、被告が原告らを告発しながら本件勧告審決に及んだのは慣習法である行政先例法または条理に違反し、違法といわなければならない。

(ハ) 原告らが本件勧告を応諾し、被告が原告らを告発した事情についてはすでに述べたとおりであるが、これは、被告が、原告らの窮状と応諾による事件の早期円満な落着への期待を逆用して、原告らの応諾を勧誘し、もつて告発を有利に展開しようと企図したものにほかならず、このような一連の措置に基づいてなされた本件審決は、行政法におけるクリーン・ハンドの原則ないし信義誠実の原則に著しく反するのみでなく、勧告審決の手続を本来の目的以外の告発という別個の目的遂行の手段としているのであつて(いわゆる他事考慮)、裁量権の正当な範囲を逸脱したものであり、更には憲法三一条の精神にも反し、違法、違憲のものといわなければならない。

(3) 審決自体の瑕疵

(ⅰ) 違反行為の不存在

原告らが本件勧告書に記載されたような石油製品の販売価格の値上げ決定を行つた事実はなく、仮に右のような決定を行つているとしても、それが決定参加者に対し拘束力を有するものでなければ独占禁止法二条六項にいう不当な取引制限にあたらないと解すべきところ、原告らは、全く右の決定に拘束されることなく、自主的にこれと異なる販売価格の引上げを実施してきたのであるから、右の決定はいわゆる不当な取引制限に該当せず、なんら同法三条に違反するものではない。特に、原告太陽石油株式会社にあつては、ジエツト燃料油の生産、販売を行つておらず、揮発油についてもその全量を原告シエル石油株式会社に対し日銀卸売物価指数に基づく価格で販売しているのであるから、右の油種に関する限り他の業者と協定してその販売価格の値上げを実施することはそもそも不可能なことであつたのである。

従つて、原告らに違反行為(すなわち不当な取引制限)が存在するものとしてなされた本件審決は違法といわなければならない。

(ⅱ) 実質的証拠の欠缺

本件審決は、原告らに独占禁止法違反の事実があるとし、これを基礎としているものである。しかし、本件においては右審決の基礎となつた事実を立証する実質的な証拠がない。勧告に対する応諾により原告らは違反事実を自認したものではないから、勧告審決に対する取消訴訟においても、原告らがその事実を争う限り、被告はこれが実質的証拠により証明されている所以を主張すべきであつて、被告が、これに対応すべき事件記録が存在しないから、その必要がないと主張するのは、本末を顛倒した議論にほかならない。

(ⅲ) 事実認定の違法

勧告審決の制度にあつては、違反事実につき被勧告人の自認があるわけでなく、正式審決におけると異なり、審判手続による証拠調も行われず、事実確定の手続は予定されていないのであるから、被告は事実認定の権限を有しないといわざるをえず、仮に事実認定が許されるとしても、勧告審決は違反行為の排除措置を主たる目的とするものであるから、その前提となる事実の認定は右の目的の達成に必要な範囲内、すなわち当該排除措置の基礎となる違反事実に限られるものというべきである。

しかるに、本件審決は、その理由中において、主文に記載された排除措置の基礎となる違反行為のほか多くの違反行為を認定し、更に法令の適用を示しているのであつて、かくては、審決に記載された事実の認定が慎重な配慮のもとになされる保障もなく、また、それがいかなる証拠に基づき、どのような経過でなされたかにつき事後審査の途もないまま、被勧告人の自由を制限する処分がなされることとなり、独占禁止法の趣旨に反し、憲法三一条の精神に反することは明らかである。

この意味において本件審決は違法・違憲たるを免れない。

(ⅳ) 事実摘示の不備

勧告審決には勧告の前提とされた違反行為につきその要件事実が摘示されていなければならないと解すべきところ、石油製品はその油種毎に流通過程を異にし、その取引分野を異にしているのであるから、右の事実摘示は何人の何人に対する取引分野(例えば、元売業者の小売業者である特約店に対する取引分野であるとか、または、直接需要者に対する取引分野であるとか)における販売価格の引上げ決定であるかを明示すべきである。

しかるに、本件審決は、その違反事実の摘示において石油製品の販売競争が制限された右の取引分野を明示していないから、法の定める要件事実の記載を欠くものとして違法である。

(ⅴ) 主文の不特定

審決は被告が準司法機関として行う一種の裁判にほかならないから、当該審決において被勧告人ないし被審人に命ずる排除措置の内容は客観的に特定していることを絶対的要件とすることは自明のことであつて、このことは、また、排除措置を命ずる審決が被勧告人ないし被審人に公法上の義務を課する行政処分の性質を有するものであり、しかも、その義務の不履行は過料または刑罰による制裁を伴うものであるから(独占禁止法九七条、九〇条)、事柄の性質上、更には罪刑法定主義の見地からも当然要請されるところである。そして、このような審決にあつては、当該審決自体において、排除措置の具体的内容につき直接これを確定しているか、もしくは、間接にこれを確定しうべき基準ないし手続を示していることを要するのである。

しかるに、本件審決は、主文第二項において「周知徹底の方法についてはあらかじめ被告の承認を受けなければならない」とし、更に同第三項において「石油製品の販売価格等を被告の指示するところに従い被告に報告しなければならない」とするのみであつて、右の周知徹底の方法及び報告につき、具体的内容は勿論、そのよるべき基準もなんら示しておらず、その具体的内容の決定を被告の自由な承認または指示に委ねているのであるから、周知徹底の方法及び報告の内容はいわば白地的なものに過ぎず、ほとんどこれを定めないのと選ぶところがなく、不明確、不特定であるといわなければならない。

従つて、本件審決の主文第二、第三項はその内容において不特定なものとして違法であり、そして右の周知徹底の方法及び報告は本件審決の中核をなすものであるから、右の違法は本件審決主文の全体を違法とするというべきである。

(ⅵ) 応諾範囲の逸脱

およそ審決における排除措置に関する主文の内容がその認定した違反事実に対し相当なものでなければならないことは当然であり、また、原告らは本件勧告書の主文に示されたところに従つて周知徹底の方法をとることを条件として本件応諾に及んだものであるが、前述のとおり本件審決の主文第二項によれば、右の周知徹底の方法の具体的内容はいわば白地的に被告の自由な、しかも一方的な恣意による決定に委ねられているというのであつて、このようなことは原告らの予想しなかつたところであるから、本件審決の主文第二項は相当な範囲または応諾の範囲を逸脱した違法のものである。

また、勧告審決における応諾の性質は、勧告書の主文に従つて排除措置をとることに応ずる旨の意思表示にすぎず、被告の認定した事実や法令の適用に対する応答を含むものでないと解すべきである。原告らのなした本件応諾も単に本件勧告書の主文第一項の抽象的な排除措置をとることにあつたところ、被告が同主文第二項に基づく周知徹底の方法の具体的内容として原告らに提示した前記文案によると本件応諾の対象外である認定された事実が持ち込まれているのであるから、本件審決の主文第二項はこの点においても違法といわなければならない。

そして、周知徹底の方法は排除措置をとることの中核をなすものであるから、右の違法は本件審決主文の全体を違法ならしめるものである。

(ⅶ) 違反行為のその後の消滅

本件勧告がなされた当時にあつては、いわゆるアラブ産油国の石油供給削減措置の声明により本件違反行為(石油製品販売価格の値上げ決定)に基づく価格以上に市場価格の急激な高騰を呼び、右の値上げ決定は全く無意味なものとなつていたのみならず、このような深刻かつ急激な情勢の変化に対処するため昭和四八年一二月二二日石油需給適正化法、国民生活安定緊急措置法が制定、施行されたことに伴い、同月二四日政府の行政指導により石油製品(但し、すでに価格が凍結されていた家庭用燈油を除く。)の元売価格は前記決定による値上げ価格のまま昭和四九年三月一八日まで凍結され、その後同月一六日石油製品(但し、指定物資として標準価格が設定された一部の燈油、液化石油ガスを除く。)につき同月一八日より政府の定めた指導価格(これは前記値上げ決定による価格を上廻るものである。)に移行することが承認され、原告らはこの指導価格のとおり石油製品の元売価格を改訂しているのであつて、被告と通商産業省は、石油需給適正化法、国民生活安定緊急措置法の実施に関し、石油製品の販売価格につき原告らが通商産業大臣の指示する価格を遵守する協力措置は法に牴触しないものであることを同年一一月三〇日付の覚書をもつて相互に確認しているのである。結局、原告らを含むすべての石油業者の元売価格は政府指導価格の設定によつて決定され、原告ら石油業者の意思でこれを変更することは不可能となつたのであるから、仮に本件審決の基礎とされた違反行為があつたとしても、現在右の違反行為(不当な取引制限の状態)が消滅していることは明らかである。

従つて、本件審決はその前提となる違反行為を欠くものとして違法といわなければならない(なお、行政処分の取消訴訟におけるその違法性判断の基準時は、処分時ではなく、判決時と解するのが相当であつて、殊に勧告審決の前提となる応諾は、独占禁止法五三条の三のいわゆる同意審決におけると異なり、被勧告人において勧告書記載の「事実及び法律の適用」を認めるものではないから、勧告審決に対する司法審査の段階において審決後の基礎たる事実の変更をも考慮して審決の適否を判断すべきは当然である。)。

3 よつて、原告らは本件審決の取消を求める。

(二)  被告の主張に対する反論

1 本件訴訟の適法性

被告は、勧告審決に対する取消訴訟の提起は審決に客観的に重大かつ明白な瑕疵が存する場合にのみ許されると解すべきところ、原告らの主張する本件審決の瑕疵はいずれも右の瑕疵に該当するものとは認められないから、原告らの本件訴はその利益を欠くものとして却下さるべきであると主張する。しかし、本件審決に被告のいう客観的に重大かつ明白な瑕疵が存するかどうかは、まさに本件訴訟における本案審理の対象とされるべきものであり(もつとも、瑕疵が客観的に重大かつ明白であるかどうかは行政処分の無効原因と取消原因とを区別する一基準とされるものであるが、原告らは前記請求原因において列挙する本件審決の瑕疵が、本件審決を当然無効ならしめるものと主張しているわけではない。)、これと本件訴の訴訟要件である訴の利益の有無とは別個の問題であつて、被告の主張は右の両者を混同した議論である。

そもそも、原告らは、本件審決の名宛人として、前述のとおり本件審決に従わなければ過料または刑罰による制裁を受けるのであり、また、無過失損害賠償の責任を追求される危険にさらされ(独占禁止法二五条)、更には、命ぜられた排除措置を周知徹底せしめられることにより信用を失うという不利益を被るのであるから、原告らが本件審決の取消を求めるにつき法律上の利益を有し、本件訴の利益があることは明白であつて、これを否定する被告の見解は、憲法三二条、七六条二項の趣旨に背馳するばかりでなく、勧告審決の手続においては審判ないし聴聞の機会が全く与えられていないのであるから、憲法三一条の要請にも反するといわなければならない。

また、被告は、応諾はその性質上審決取消の訴を提起する権利の放棄をも含むと強弁する。しかし、元来訴権の放棄は憲法三二条に違反し許されないところであるのみならず、既述のとおり応諾の性質は勧告書記載の排除措置をとることに応ずる旨の意思表示に過ぎず、それ以上のものではないから、これに被告の主張するような訴権の放棄が含まれるはずがなく、その故にこそ独占禁止法七七条、八五条等は審決の訴訟から勧告審決を除外していないのである。

2 違反事実存否の審理

前述のとおり、勧告審決の手続にあつては、違反事実につき被勧告人の自認があるわけでなく、また、審判手続による認定も行われないのであるから、審判手続といういわば第一審的事実認定の手続を経た正式審決の取消訴訟において違反事実の存否につき実質的証拠の有無を争うことができる以上(独占禁止法八二条)、勧告審決の取消訴訟において違反事実の存在を争うことが許さるべきは当然であつて、これが許されないとするならば、勧告審決は実質的に終審たる裁判と化し、かくては、憲法七六条二項に反する結果となり、また、憲法三一条の要請にもとることともなる。

なお、被告は、勧告審決の取消訴訟において違反事実の存在を争うことが許されない理由として、正式審決の取消訴訟にあつては、実質的証拠の法則が採用され、被告より裁判所に送付された事件記録がその争点判断の重要な基礎資料となるのに対し、勧告審決を争う場合においては、右のような資料となるべき事件記録が存しないことを挙げている。しかし、独占禁止法七八条は勧告審決の場合にも適用があり、その取消訴訟の提起があつたときは、裁判所の求めにより被告は当該事件の記録を送付すべきであつて、右にいう記録とは、勧告審決をなすに至つた被告の諸調査(捜査)活動に基づく調書その他裁判上証拠となる一切のもの(同法四六条、四七条)を含むと解すべきであるのみならず、被告はその主張の違反事実を立証するに足りる新たな証拠を提出すべきであるから、被告の主張は理由がない。

二、被告

(一)  本案前の答弁

独占禁止法違反事件の処理手続において、正式審決が準司法的手続としての慎重な審判手続を経て行われるのに対し、勧告審決は、被勧告人が勧告書に明示された行政処分を受けることに同意する旨の意思を表示し、事案につき紛争の生ずるおそれがないことを前提として、審判手続によらない略式手続により勧告書記載どおりの処分が行われるものであつて、勧告及び審決という被告の行政行為と被勧告人の応諾という私人の公法行為とが密接に連続、結合して成立する行政手続であることを特色とする。

そして、このような行政手続にあつては、法の保障する手続の公正と安定の要請に従うとともに、他方、行政の能率のための形式的画一明確性の要請に従わなければならないから、勧告審決の取消はその手続過程において制度上許容し難い著しい瑕疵の存する場合にのみ許されるところであつて、右の勧告審決制度の趣旨に照らせば、その原因が被告の側にあると被勧告人の側にあるとを問わず、審決に客観的に重大かつ明白な瑕疵があり、司法救済によるその取消を認めないとすれば、勧告を応諾した者に回復することのできない深刻かつ重大な損害を与え、著しく正義に反する特段の事情が存する場合以外は、審決取消の訴は許されないと解すべきである。

しかるに、原告らの主張する本件審決の瑕疵はいずれも右の瑕疵に該当するものとは認められない。

のみならず、応諾の法的性質は、単に勧告書の主文に記載された排除措置等に従うことを認めるというにとどまるものでなく、右の排除措置等の前提となる違反事実及び法令の適用についても争わず、かつ、審判手続を経た審決を受けることを放棄して、応諾の結果行われる勧告と同趣旨の審決についても争わないこと、すなわち、司法救済の手続をとることを放棄すること、換言すれば、審決取消の訴を提起する権利を放棄することをも含むものである。

従つて、原告らの本件訴はその利益を欠くものとして却下さるべきである。

(二)  請求の原因に対する答弁

1 請求の原因1につき。認める。

2 同2(1)、(ⅰ)につき。被告が原告らをその主張の日付で告発したこと(但し、被告が検事総長に告発書を提出したのは昭和四九年二月一九日である。)及び原告らより周知徹底の方法につき承認を求める申請がなされ、被告が、原告らに対し、その申請にかかる文案を承認できない旨通知するとともに被告において作成した適当と思料する文案を提示したことを認め、原告らが本件排除措置の前提となる違反事実を認めるものでなかつたとの点及び被告が、原告らを告発する意図のもとに捜査を遂げていながら、原告らに対し殊更にこれを秘して勧告を試み、その応諾を得るや時を移さず原告らを告発したとの点を否認し、その余の事実は知らない。

3 同2、(1)、(ⅱ)につき。原告らより周知徹底の方法につき承認を求める申請がなされ、被告が、原告らに対し、その申請にかかる文案を承認できない旨通知するとともに被告において作成した適当と思料する文案を提示したことは認め(もつとも、これにつき被告が特に同種類似の事案において通常とつている承認基準と全く異なる基準をもつて臨んだということはない。)、その余の事実は否認する。なお、応諾に基づき勧告審決がなされたのちはもはや応諾の撤回は許されない。

4 同2、(2)、(ⅰ)につき。否認する。後記のとおり、被告は、審査、収集した証拠を慎重に検討した結果、違反事実の証拠が十分であると認めたので、本件勧告に及んだのである。

5 同2、(2)、(ⅱ)、(イ)につき。被告が本件勧告書記載の違反事実につき原告らを告発したことは認める。なお、告発制度は刑事処分を求めるものであるのに対し、勧告審決の制度は行政処分であつて、両者は全く別個のものであるから、一方で告発の手続をすすめ、他方で勧告審決の手続をとつたからといつて、直ちに違法、不法となるものではない。そして、違反事件につき行政処分として排除措置を命ずるに当り、勧告の手続によるかそれとも審判開始決定の手続によるかは、独占禁止法の目的に照らしいずれがより適切、効果的に違反行為を排除することができるかによつて決すべきであり、本件のように経済情勢、社会情勢等から自由かつ公正な競争秩序の早期回復が特に望まれる案件については、勧告を行い、その応諾がある以上、正式審決の手続によらず、速やかに勧告審決を行い、これを確定させるのが最も効果的であり、法の目的に沿うものである。また、原告らは一審的審判の機会を奪われたというけれども、これは原告らがその自由な判断に従い本件勧告を応諾した結果にほかならず、みずから右の機会を放棄したものというべきである。

6 同2、(2)、(ⅱ)、(ロ)につき。被告がこれまで原告らの例を除き勧告審決を行つた応諾者に対し当該勧告の理由とされた独占禁止法三条違反の行為につき告発をしたことはないことを認め、原告らの主張するような行政慣行または慣習法の存在することは否認する。

7 同2、(2)、(ⅱ)、(ハ)につき。否認する。

8 同2、(3)、(ⅰ)につき。否認する。被告は、独占禁止法四六条により審査、収集した証拠に基づき違反行為の有無を慎重に検討した結果、違反事実の証拠が十分であると判断して本件勧告を行い、原告らの応諾が得られたので、右と同趣旨の違反事実を認定し本件審決を行つたものである。もつとも、勧告審決の基礎とされた違反事実の不存在が審決取消の理由とならないことはさきに本案前の答弁において述べたところから明らかであつて、このことは、正式審決の取消訴訟において違反事実の有無が争われる場合には、実質的証拠の法則が採用され(独占禁止法八〇条、八一条)、被告より裁判所に送付された事件記録がその争点判断の重要な基礎資料となるのに対し(同法七八条)、勧告審決を争う場合にはこのような資料となる事件記録が存在しないことに徴しても首肯される。なお、仮に原告太陽石油株式会社にその主張のような特殊事情があつたとしても、同原告が、石油製品の販売を業としており、本件値上げ決定に加わつている以上、ジェット燃料油及び揮発油の油種を含む石油製品の八品目につき一体として一個の違反行為が成立するとみるべきであつて、右の各品目別に違反行為が成立するとみるべきではない。

9 同2、(3)、(ⅱ)につき。否認する。勧告審決に対する取消の訴においては審決の基礎となつた事実が実質的証拠に基づかないことをもつて争うことのできないことはさきに本案前の答弁において主張したところと同一である。

10 同2、(3)、(ⅲ)につき。本件審決の理由中に本件排除措置の基礎となる違反事実以外の違反事実も記載されていることは認める。しかし、これは単に事情として記載したに過ぎない。

11 同2、(3)、(ⅳ)につき。否認する。

12 同2、(3)、(ⅴ)につき。本件審決の主文第二、第三項において、周知徹底の方法につき被告の承認を受け、また、被告の指示するところに従い販売価格等の報告をすべきものとされていることは認める。しかし、本件審決の排除措置等の具体的内容は、単に主文の記載ないし趣旨のみならず、理由中の認定事実、法令の適用等をも総合勘案すれば、おのずから明らかであり、また、同種類似の事案において通常とられている排除措置等からも容易に知りうるところである。

13 同2、(3)、(ⅵ)につき。否認する。但し、被告が、原告らに対し、その承認申請を事実上却下するとともに、違反事実及び法令の適用を認めて措置をとることを要請する旨の修正案を提示したことは認める。

14 同2、(3)、(ⅶ)につき。否認する。仮に審決後に違法状態が消滅したとしても、これを審決取消の理由とすることは許されない。

理由

一まず、独占禁止法四八条により勧告審決を受けた者は、右審決取消の訴を提起しうるかどうかについて判断する。同条は、公正取引委員会が同法違反の行為があると認める場合には、当該違反行為をしている者に対し適当な措置すなわち同法違反の行為を排除するために必要な措置(以下排除措置という。)をとるべきことを勧告し、その者が右の勧告を応諾すれば審決をもつて当該勧告と同趣旨のことを命じうるとしているところ、これは排除措置を被勧告人の自主的履行に委ねるのでなく、法的強制の対象とすることによりその実効性を確保しようとするものであつて、右審決を受けた者は、当該審決の名宛人としてこれにより自己の権利または利益を害されるべき地位にあり、その取消の訴を提起しうることは当然であつて、同法の明文上もこれを別異に解さなければならないものはない。けだし、右勧告は、事実及び法令の適用、違反行為を排除するための具体的措置を記載した勧告書の謄本の送達によりなされるものであつて(公正取引委員会の審査及び審判に関する規則二〇条)、この勧告を応諾することは、直接には右勧告書の主文に掲記された排除措置をとることを認諾するもので、これに伴いその前提となる公正取引委員会が勧告書に記載して指摘する違反事実及び法令の適用についても敢えて争わない趣旨を表明するものではあるが、それ以上に審決取消訴訟を提起する権利までも放棄する意思を表示したものとは解しえないからである。従つて、応諾により勧告審決を受けた者は、当該審決の取消訴訟において、自ら争わないとした違反事実の存否及び排除措置の適否を争い、これをもつて審決取消の事由とすることは許されず、このような取消事由を主張するにとどまる場合は、請求は棄却されることになるというにすぎず、訴そのものを不適法として却下されることはないのである。事実の存否、法令の適用及び排除措置の適否を争いえないからといつて、それは取消事由の主張の範囲が制限され、事実上それだけ審決取消の機会が少なくなるというだけであつて、かような訴が原告らになんらの利益をもたらすものではないということにはならない。この点に関する被告の本案前の主張は理由がない。

二被告が、昭和四九年二月五日原告らを含む石油製品の元売業者一二社に対し独占禁止法違反の行為があるとし、公正取引委員会昭和四九年(勧)第六号独占禁止法違反事件として、同法四八条一項により別紙(一)記載のとおりの勧告をし、原告らがこれを応諾したので、同月二二日同条三項により原告らに対し別紙(二)記載のとおりの審決をし、その頃原告らに対し同審決書の謄本が送達されたことは当事者間に争いがない。

原告らは右審決の取消原因として種々の事由を挙げているので、以下順次これらにつき判断を加えることとする。

(一)  応諾の錯誤による無効について

原告らは、本件応諾ののち原告らは、被告より、本件勧告書記載の違反事実につき告発を受け、また、本件勧告書主文掲記の周知徹底の方法に関し相当と思料する文案につき承認を拒否されているが、原告らが本件勧告を応諾したのは、右のように告発を受けたり、承認を拒否されることはないものと信じたためであるから、右の応諾の意思表示はその要素に錯誤があり無効であると主張し、原告らがその主張のとおり告発を受けたこと及び原告らの申請した周知徹底の方法に関する文案につき被告の承認が得られなかつたことは当事者間に争いがない。

しかしながら、応諾は審決という行政行為の前提または条件をなす被勧告人(私人)の公法行為であるところ、このような私人の行う公法行為につき民法九五条の錯誤の規定がそのまま類推適用されるかどうかは、公法行為の形式的確実性の要請の観点から、問題の存するところであるが、一応これが肯定されるとしても、原告らが本件応諾をなすに至つた事情として主張するところはいずれもその動機に過ぎず、このような動機の錯誤は、右の動機が相手方に対し表示されたときにはじめて意思表示の内容の錯誤になり、要素の錯誤となるものと解すべきであつて、本件においては、原告らも右の動機を相手方たる被告に対し明示したと主張しているわけではなく、また、原告らの主張するようにこれを黙示的に表示したものと解するのも困難であるから、原告の本件応諾の意思表示に要素の錯誤があるものとは到底認められない。従つて、本件応諾が無効であるとする原告らの主張は失当である。

(二)  応諾の撤回について

原告らは、応諾はこれに基づく審決に対する取消訴訟の事実審の口頭弁論終結時に至るまでその自由な撤回が許されると主張する。

しかし、独占禁止法四八条の応諾が、同条の審決の前提または条件をなす被勧告人の行為であつて、私人の行う公法行為にほかならないことは前述のとおりであるから、このような私人の行為の撤回は、その私人の行為に基づきこれに対応する行政行為がなされるまでは、原則として自由になしうるものというべきであるが、すでに行政行為がなされたのちは、行政関係を不安定、不確実ならしめるものとして許されないと解すべきである。特に勧告審決は被告がその準司法的権限に基づいて行うものであつて、かかる審決がなされたのちにおいても応諾者は自由にその応諾を撤回しうるとするならば、勧告審決の制度はその根底から覆されることとなるから、応諾に基づき審決がなされたのちは、審決の確定前であつても、もはや応諾の撤回は許されないといわなければならない。

なお、原告らは、被告は本件審決に基づく周知徹底の方法に関する原告らの承認申請を不当に拒否しているが、これは原告らが本件応諾をした条件に反するから、当然右の応諾の撤回は許さるべきであると主張するけれども、それは結局原告らが本件応諾をなすに至つた動機に齟齬があるというに帰着するものと解されるが、本件勧告書の内容を点検すれば、原告ら指摘の点はすでに勧告書の事実及び法令の適用の記載にあらわれており、本件勧告の内容となつていないとはいい難いから、この点に齟齬があつたとして審決後の本件応諾の撤回ないしは取消を許すべき理由とすることはできない。

(三)  勧告前の調査の不公正について

原告らは、本件勧告前の審査の段階において被告は公正かつ十分な調査を行つていないと主張するが、それは結局違反行為の存在を争うことに帰着するものと解され、このような主張の許されないことは後に述べるとおりであるのみならず、原告太陽石油株式会社を含めて原告らは被告の勧告をそのまま応諾しているのであつて、その後に右勧告前の調査の不公正を主張するのは失当といわなければならない。

(四)  勧告審決手続採用の違法について

1  原告らは、本件のように刑事事件として原告らを告発しているような事案については、正式審決の手続により原告らに十分な主張、立証の機会を与えるべきであつて、勧告審決の手続により原告らから右の機会を奪うことは許されないと主張する。

しかしながら、被告が審査の結果独占禁止法違反の行為があると認めた場合に、違反行為をした者に対し、同法四八条一項により勧告をするか、同法四九条により審判手続を開始するかは、公正かつ自由な競争秩序のより効果的回復の観点から、被告においてその自由な裁量により選択しうるところである。右四九条が、事件を審判手続に付することが公共の利益に適合すると認められるときに審判を開始することができると規定していることから、公共の利益に適合するときは、公正取引委員会は必らず審判手続に付すべく、勧告手続によることをえないとするのは、当を得た解釈ということができない。何となれば、同条は、公共の利益に適合するときは、独占禁止法違反の行為をしている者に対しその意思に反しても審判手続を経て一定の排除措置を命じうることを規定し、個人の自由の制限に対する憲法上の保障との調和をはかつたものにすぎないと解すべきであるからである。従つて、社会、経済情勢等諸般の事情を考慮すれば公正かつ自由な競争秩序の早期回復は常に望まれるわけであるから、それが告発すべき案件であると否とを問わず、特に当初から勧告に対する応諾を期待することが困難であると予想されるような場合はともかく、すべての事案につき原則としてまず勧告をし、応諾があれば、これに基づく審決をして、その確定をはかり、応諾が得られない場合は審判手続を開始するものとすることは、現実的かつ合理的であつて、なんら前記裁量権の範囲を逸脱するものではなく、かえつて公共の利益に適合し、法の目的に沿うものといわなければならない。

2  次に、原告らは、被告は、独占禁止法違反の行為につき勧告を応諾した者に対しては同一違反行為につき告発をしない行政慣行があるにもかかわらず、これに反して本件勧告を応諾した原告らを告発しているから、本件審決は違法であると主張し、被告が昭和四九年二月一九日本件勧告書記載の違反行為につき原告らを告発したこと及び被告が、本件を除き、従来勧告審決を行つた応諾者に対し勧告の理由とされた同法三条違反の行為につき告発をした例のないことは、被告の認めるところである。

しかしながら、同法七三条一項は「公正取引委員会は、この法律の規定に違反する犯罪があると思料するときは検事総長に告発しなければならない。」と規定しているけれども、被告は、その行政目的の見地より、その裁量に従い事案に応じて告発するかどうかを決すべきものと解されるから、被告が右の裁量によりたまたま前記のように告発をしたことがないからといつて、直ちにすべて勧告を応諾した同法三条違反の行為をした者に対し告発をしないとの行政慣行があるとするのは速断のそしりを免れないのみならず、仮に右のような行政慣行があるとしても、勧告に対する応諾があつた以上、これに基づき審決をすることはむしろ当然であつて、原告らのいうところは、ひつきよう、告発の妥当性を問題とするにすぎず、審決を不当、違法ならしめる理由とすることはできない。

3  更に、原告らは、被告らを告発する目的で本件勧告審決の手続を利用したものであるから、本件審決は違法であると主張する。

しかしながら、独占禁止法は、同法違反の行為があれば、審決という行政手続に基づき排除措置を命ずることにより直接公正かつ自由な競争秩序の回復をはかるとともに必要があれば刑事手続による制裁をもつて臨むこととしているのであつて、右の排除措置命令と刑事上の制裁は両両相俟つて独占禁止法の実効性を担保するものであるから、被告が原告らに対し本件勧告審決の手続を進めると同時に本件告発の手続を進めたからといつて、なんら異とするに足らず、これをもつて違法と目すべき理由は毫もなく、本件審決の手続がもつぱら告発を有利ならしめるために用いられたとする非難はあたらない。

(五)  違反行為の不存在について

原告らは、本件勧告書ないし審決書に記載された独占禁止法違反の行為はもともと存在しないから、本件審決は違法であると主張する。

しかし、そもそも独占禁止法四八条の勧告審決の制度は、被告が同法違反の行為があると認めた場合に違反行為者に対し排除措置をとるべきことを勧告し、その応諾があれば、審判手続による違反事実存否確定の手続は必要ないものとしてこれを経ることなく、勧告と同趣旨の審決をし、もつて事件の簡易、迅速な決着をはかるものであるから、勧告を応諾した者が違反行為の不存在を理由に審決の違法を主張してその取消を求めることは、それ自体矛盾であつて、まさに勧告制度の趣旨に反し、これを無意味ならしめるものとして到底許されないところである。原告らは、勧告審決の取消訴訟において違反事実の存否を争うことが許されないとすれば、実質的には行政機関たる被告が終審として裁判を行う結果となり、憲法七六条に違反するというけれども、このように違反事実の不存在を審決取消の事由となしえないとされるのは、原告らが、その自由な選択により本件勧告を応諾して、違反行為の存否につき争うことをやめ、審判手続によるその確定の機会を放棄したことによるものにほかならず、従つて、憲法七六条違反の主張は採用できない。

(六)  実質的証拠の欠缺について

原告らは本件審決には審決の基礎となつた事実を立証する実質的な証拠がないと主張する。

しかし、勧告審決に対しては違反事実の不存在を理由として審決の取消を求めることのできないことは前述のとおりであり、これと同様に審決の基礎となつた事実を立証する実質的な証拠のないことをもつて審決の取消を求めることも許されないと解すべきである。けだし、勧告は、公正取引委員会が一定の独占禁止法違反の行為があると認めるとき、違反行為をしている者に対し一定の排除措置をとるべきことを勧告するものであり、これに対する応諾は、直接にはその勧告にかかる排除措置をとることを内容とするものではあるけれども、勧告が違反行為の存在を前提とするものである以上、応諾もまた前提たる違反行為の存在につき争わない趣旨を表明するものというべきであつて、この故に違反行為の存否については審判手続によつてこれを立証することを不必要とするものであるから、勧告審決に対しその実質的な証拠の欠缺をもつて違法と主張することはそもそも制度の本旨に矛盾するものであるからである。独占禁止法八二条一号は、審決の基礎となつた事実を立証する実質的な証拠がない場合を審決取消事由の一としており、当該審決の種類について明文上特段の限定はしていないけれども、ここにいう審決は、公正取引委員会が、審判開始決定をし、審判手続を経て証拠により事実を認定し、法令を適用して、一定の排除措置を命ずる正式審決をいうものであることは、事の性質上おのずから明らかである。更に、同法七八条は、審決に対する取消の訴の提起があつたときは、裁判所から公正取引委員会に対し当該事件の記録の送付を求めるべきことを規定しているが、この事件記録は、裁判上証拠の有無ないし新しい証拠の要否が判断される場合に備えて、裁判上証拠となるべきものを指すのであつて、結局公正取引委員会が審判を開始したのちにする審判手続についての記録をいうものであるところ(当庁昭和四三年(行ケ)第一四八号、昭和四六年七月一七日判決行政事件裁判例集二二巻七号一〇二二頁参照)、本件については審判手続を経ていないのであるから、その意味において裁判所に送付すべき事件記録はなく、そのことは、勧告審決について実質的な証拠の有無が裁判所により判断されることがないことを前提として、はじめて理解されるところである。この点に関する原告らの主張は失当といわなければならない。

(七)  事実認定の違法について

原告らは、勧告審決にあつては、違反行為を確定する手続が予定されていないから、被告は違反事実認定の権限を有しないというべきところ、本件審決書に、その認定した違反事実を記載し、更に、本件審決の主文と無関係な違反事実を併記しているのは違法であると主張する。

しかし、もとより被告が勧告審決の前提としてなす勧告は、被告において、必要な調査を経て(独占禁止法四六条)、しかるべき証拠に基づき同法違反の行為があると認める場合に、許されるのであるから(同法四八条一項)、被告が、その命ずる排除措置の基礎となる違反事実を、みずからの調査と被勧告人の応諾とにより認定したところに従つて明示するのは、当該排除措置を理由づけるものとして当然のことであり、同法五七条はこれを被告に義務づけているのである。また、勧告審決の手続においては、違反行為の存在の確定につき慎重な手続が保障されず、事後審査の途もないから、憲法三一条に違反するとの原告らの議論は、前述のとおり被勧告人が勧告を応諾することにより、違反行為の存否につき争うことをやめ、審判手続の機会を放棄していることを忘れた議論であつて、その理由のないことは明らかである。なお、本件審決書にその主文と直接関係のない原告らの違反行為が記載されていることは当事者間に争いのないところであるが、右の記載は、主文と対照すれば、単なる事情として付記されたものと認められ、このような事情の記載があるからといつて、本件審決を違法ならしめるものでないことはいうまでもない。

(八)  違反事実摘示の不備について

原告らの主張するところは、要するに、本件審決にはその認定事実において本件石油製品販売価格の引上げに関する決定が実質的に競争を制限した一定の取引分野を確定しない違法があるというにあるものと解される。

しかしながら、独占禁止法二条六項にいう一定の取引分野とは競争を実質的に制限する行為が及ぼす影響の範囲に関係づけて認識されるべき業種上及び地域上の一定範囲の市場を意味するものと解されるところ、本件審決がその認定した事実として摘示するところによれば、原告らを含む元売一二社は、それぞれ、審決書記載の肩書地に本店を置き、石油製品の販売業を営む者であつて、これら元売一二社の石油製品のそれぞれの販売量の合計はいずれも我が国における当該製品の総販売量の大部分を占めるものであるところ、右元売一二社は、その取引に係る審決書記載の揮発油ほか七品目の石油製品の販売価格につき本件値上げの決定をし、これを実施することにより我が国における石油製品の販売分野における競争を実質的に制限しているというにあることは、当事者間に争いがないから、その取引の態様及び地域的関係からして、元売会社がその石油製品を全国的規模において販売する右石油製品販売市場をここにいう一定の取引分野としていることはおのずから明らかであつて、前記一定の取引分野の確定につきなんら欠けるところはない。

(九)  審決主文の不特定について

原告らは、本件審決の主文第二項は原告らのとるべき周知徹底の方法を被告の承認するところにかからしめ、また、同第三項は原告らのなすべき報告を被告の指示するところによらしめているが、右の承認及び指示については本件審決自体においてなんらそのよるべき基準が示されていないから、その具体的内容は被告の恣意により決せられることとなり、結局右の主文第二、第三項はいずれもその内容が不特定であると主張する。

しかし、一般に、行政行為の内容を確定するにあたつては、その文言の形式のみにとらわれず、通常人の合理的解釈に従い合目的的な判断により決すべきことは当然であつて、審決についてもこれを別異に解すべき理由はなく、しかるときは、右の承認または指示についても、本件排除措置の内容ないし目的、同種類似の事案における通常の例等を斟酌し、社会通念に従つてこれを合理的に解釈すれば、その具体的内容はおのずから確定されるはずである。万一原告らのとろうとする方法が窮極において被告の承認するところとならないことの故をもつて原告らが審決違反の責任を問われることとなれば、その当否は当然裁判所の判断を受けることとなり、裁判所はその内容を客観的に確定しうるものというべきであるから、その決定が決した被告の恣意に委ねられているわけのものでないことは明らかである。従つて前記主文の内容が不特定であるとする主張は失当である。

(一〇)  応諾の範囲の逸脱について

原告らは、被告が原告らに対して要求している本件審決の主文第二項に基づく周知徹底の方法の具体的内容には原告らの応諾していない認定事実が含まれているから、右第二項は原告らの応諾した範囲を逸脱しているといい、また、右主文第二項は、原告らがとるべき周知徹底の方法につきその具体的内容の決定を被告の一方的な恣意に委ねているから、相当な範囲を逸脱していると主張する。

しかしながら、原告らの主張するように被告が周知徹底の方法の具体的内容に原告らの応諾した範囲外の認定事実を含めることを要求しているものと解し難いことは前述のとおりである。また、右主文第二項が原告らのとるべき周知徹底の方法の具体的内容につきその決定を被告の恣意に委ねているものと解すべきでないことはすでに述べたとおりである。従つて、この点に関する原告らの主張は失当である。

(一一)  違反行為のその後の消滅について

原告らは、少くとも現在原告らの違反行為は存在しなくなつているから、本件審決は取消さるべきであると主張する。

しかし、一般に行政処分の取消訴訟においては、特段の法の定めがない限り、当該処分のなされた時を基準として処分が違法であるかどうかを判断すべきであつて、処分後の事情の変更はこれを考慮すべきでないと解するのが相当であり、審決取消の訴訟についてもこれを別異に解すべき根拠はない。もつとも、独占禁止法はその六六条二項において「公正取引委員会は、経済事情の変化その他の事由により、当該審決を維持することが不当であつて公共の利益に反すると認めるときは、審決を以てこれを取り消し、又は変更することができる。」と規定しているけれども、これは、行政機関たる被告に対し審決の取消または変更の権限を認めたものにすぎず、審決取消の訴訟に関するものでないことは右規定の文言上明からであるから、前記特段の定めにあたらないことはいうまでもない。本件審決後の事情の変更を考慮すべきものとする原告らの主張は失当である。

従つて、原告らが本件審決の取消事由として主張するところはすべて理由がないといわなければならない。

三以上の次第であるから、本件審決の取消を求める原告らの本訴請求はいずれも失当として棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(安村和雄 浅沼武 真船孝允 鈴木重信 園部逸夫)

昭和四十九年(勧)第六号

(一)勧告書

出光興産株式会社

右代表者 石田正実

日本石油株式会社

右代表者 滝口丈夫

太陽石油株式会社

右代表者 青木繁良

大協石油株式会社

右代表者 密田博孝

丸善石油株式会社

右代表者 宮森和夫

共同石油株式会社

右代表者 森誓夫

キグナス石油株式会社

右代表者 石黒定治

九州石油株式会社

右代表者 伊藤繁樹

三菱石油株式会社

右代表者 渡辺武夫

昭和石油株式会社

右代表者 永山時雄

シェル石油株式会社

右代表者 テイー・デイー・ロス

ゼネラル石油株式会社

右代表者 高洲九郎

公正取引委員会は、右の者らに対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第四十八条第一項の規定に基づき、次のとおり勧告する。

主文

一 出光興産株式会社、日本石油株式会社、太陽石油株式会社、大協石油株式会社、丸善石油株式会社、共同石油株式会社、キグナス石油株式会社、九州石油株式会社、三菱石油株式会社、昭和石油株式会社、シェル石油株式会社及びゼネラル石油株式会社は、昭和四十八年十一月上旬ごろに行なつた石油製品の販売価格の引上げに関する決定を破棄すること。

二 前記十二社は、次の事項を石油製品の取引先及び需要者に周知徹底させること。この周知徹底の方法については、あらかじめ、当委員会の承認を受けること。

(一) 前項に基づいてとつた措置

(二) 前記十二社は、今後、共同して、石油製品の販売価格を決定せず、各社がそれぞれ自主的に決める旨

三 前記十二社は、石油製品の購入量、販売量、在庫量及び販売価格を当委員会の指示するところに従い、昭和四十九年二月以降一年間、当委員会に報告すること。

四 前記十二社は、第一項及び第二項に基づいてとつた措置を、すみやかに、当委員会に報告すること。

理由

第一 事実

一、出光興産株式会社(以下「出光興産」という。)、日本石油株式会社(以下「日本石油」という。)、太陽石油株式会社(以下「太陽石油」という。)、大協石油株式会社、丸善石油株式会社、共同石油株式会社、キグナス石油株式会社、九州石油株式会社、三菱石油株式会社、昭和石油株式会社、シェル石油株式会社及びゼネラル石油株式会社の十二社(以下「元売十二社」という。)は、それぞれ肩書地に本店を置き、石油製品の販売業を営む者であり、元売十二社の石油製品のそれぞれの販売量の合計は、いずれも我が国における当該製品の総販売量の大部分を占めている。

二(一)イ 元売十二社は、昭和四十七年十一月下旬ごろ、東京都千代田区所在の石油連盟(以下「石連」という。)会議室で開催した営業担当役員らの会合等において、いわゆるテヘラン協定により、同四十八年一月から原油の購入価格が引き上げられること等に対処するため、石油製品の品目別引上げ額を検討した結果、石油製品の販売価格を一キロリトッル当り、同四十七年十月の販売価格より、次表の引上げ額を目標として、揮発油を除く製品については同四十八年一月一日から、揮発油については同月十六日から、それぞれ引き上げることを決定した。

品目別

引上げ額

揮発油

一千円

ナフサ

三百円

ジェット燃料油

一千円

灯油

五百円

軽油

五百円

A重油

五百円

B重油

四百円

C重油

二百円

ロ 次いで、元売十二社は、昭和四十八年一月上旬ごろ、前記石連会議室で開催した営業担当役員らの会合等において、いわゆるリヤド協定により、同四十八年一月から原油の購入価格が引き上げられること等に対処するため、前記イの石油製品の品目別引上げ額の修正を検討した結果、石油製品の品目別の販売価格を、一キロリトッル当り、同四十七年十月の販売価格より、次表の引上げ額を目標として、揮発油を除く製品については同四十八年二月一日から揮発油については同月十六日から、それぞれ引き上げることを決定した。

品目別

引上げ額

揮発油

三千円

ナフサ

三百円

ジェット燃料油

一千円

灯油

一千円

軽油

一千円

A重油

一千円

B重油

五百円

C重油

二百円

(二) 元売十二社は、昭和四十八年五月十四日、東京都港区所在の日本石油会議室で開催した営業担当役員らの会合において、いわゆるジュネーブ協定により、同年四月から原油の購入価格が引き上げられたこと等に対処するため、灯油等の石油製品の引上げ額を検討した結果、石油製品のうち、灯油、軽油、A重油及びB重油の販売価格を一キロリトッル当り、同年六月の販売価格より、次表の引上げ額を目標として、同年七月一日から引き上げることを決定した。

品目別

引上げ額

灯油

一千円

軽油

一千円

A重油

一千円

B重油

三百円

次いで、元売十二社は、同年六月下旬ごろ、前記石連会議室で開催した営業担当役員らの会合において、前記決定の実施期日について再度検討した結果、前記期日を同年八月一日とすることを決定した。

(三)イ 元売十二社は、昭和四十八年八月二十七日、前記石連会議室で開催した営業担当役員らの会合において、いわゆる新ジュネーブ協定により同年六月、同年七月及び同年八月から原油の購入価格が引き上げられ、同協定により更に同年十月から原油の購入価格が引き上げられること等に対処するため、石油製品の品目別引上げ額を検討し、次いで、同年九月上旬ごろ、前記石連会議室で開催した営業担当役員らの会合等において検討した結果、石油製品の販売価格を一キロリトッル当り、同年六月の販売価格より、次表の引上げ額が目標として、同年十月一日(但し、揮発油は同年十一月一日)及び同四十九年一月からの二回にわたつて、それぞれ引き上げること及び同四十九年一月からの石油製品の引上げ額については、今後の原油の購入価格等の動向により修正することを決定した。

品目別

引上げ額

昭和四十八年十月

昭和四十九年一月

揮発油

三千円

三千円

ナフサ

一千円

二千円

民生用灯油

一千円

二千円

工業用灯油

二千円

三千円

軽油

二千円

三千円

A重油

二千円

三千円

B重油

六百円

九百円

C重油

二百円

五百円

ロ 次いで、元売十二社は、昭和四十八年十月上旬ごろ、東京都千代田区所在の出光興産会議室で開催した営業担当役員らの会合等において、前記決定の、同月一日からのC重油の一キロリトッル当りの引上げ額二百円を、四百円とすることを決定した。

ハ 更に、元売十二社は、昭和四十八年十月六日の第四次中東戦争のぼつ発に伴い、産油国が原油供給量を削減すること及び同月十六日から新公示価格制度を採用することを表明したこと等に対処するため、同年二十九日に前記石連会議室で開催した営業担当役員らの会合等においてその対策を検討し、次いで、同年十一月上旬ごろ、前記石連会議室で開催した営業担当役員らの会合等において、前記イ及びロの石油製品の品目別引上げ額の修正を検討した結果、石油製品の品目別の販売価格を一キロリトッル当り、同年六月の販売価格より、次表の引上げ額を目標として、揮発油を除く製品については同年十一月中旬から、揮発油については同年十二月一日から、それぞれ引き上げることを決定した。

品目別

引上げ額

揮発油

一万円

ナフサ

五千円

ジェット燃料油

五千円

工業用灯油

六千円

軽油

六千円

A重油

六千円

B重油

三千円

C重油

三千円

(四) しかして、元売十二社は、前記二の(一)、(二)及び(三)の各決定に基づき、おおむね前記石油製品の販売価格を引き上げている。

三(一) 太陽石油を除く元売十一社(以下「元売十一社」という。)は、自動車用揮発油(以下「自揮油」という。)の市況維持のため、昭和四十八年四月五日、前記日本石油会議室で開催した自揮油の販売担当課長らの会合において、自揮油の販売量を検討した結果、

イ 石連の需要専門委員会で月別に策定した、自揮油の全需要量に百2.5パーセントを乗じた数量から、エッソ・スタンダード石油株式会社及びモービル石油株式会社の販売量として、15.361パーセントを控除した数量を、元売十一社の月別合計販売量とすること

ロ 前記月別合計販売量に、自揮油の販売担当課長らの会合で定めた石連におかれた支部の地区別販売比率を乗じて算出した数量を、同地区別の月間総販売量とし、これをもとに石連各支部において、各支部ごとに元売十一社のそれぞれの販売実績、給油所数、販売量の伸び率等を勘案して、元売十一社のそれぞれの月別販売量を決定すること

ハ 前記月別販売量を超過して販売した場合の制裁措置は、石連各支部に一任すること

ニ 前記月別販売量の未達分の翌月分への繰越しは、認めないこと等を決定したうえ、同四十八年四月から同年六月までの石連各支部別の自揮油の販売量を別紙のとおり決定した。

(二) 元売十一社は、昭和四十八年六月ごろ、前記出光興産会議室で開催した自揮油の販売担当課長らの会合において、同年七月から同年九月までの自揮油の販売量を、同年九月ごろ、前記出光興産会議室で開催した自揮油の販売担当課長らの会合において、同年十月から同年十二月までの自揮油の販売量をそれぞれ検討した結果、いずれも前記(一)のイからニまでの決定を踏襲することとしたうえ、石連各支部別の同年七月から同年九月までの自揮油の販売量を別紙二のとおり、同年十月から同年十二月までの自揮油の販売量を別紙三のとおり、いずれも決定した。

(三) しかして、元売十一社は、前記各決定に基づき、昭和四十八年十二月まで自揮油の販売数量を制限してきた。

第二 法令の適用

前記事実によれば、元売十二社は、共同して石油製品の販売価格の引上げを決定し、これを実施することにより、公共の利益に反して、我が国における石油製品の販売分野における競争を実質的に制限しているものであつて、これは、独占禁止法第二条第六項に規定する不当な取引制限に該当し、同法第三条後段の規定に違反するものである。

昭和四十九年二月五日

公正取引委員会

(高橋俊英 高橋勝好 橋本徳男 呉文二 滝川正久)

別紙一

支部名

支部の地区別販売比率

(パーセント)

支部の地区別販売量

(単位・千キロリトッル)

昭和四十八年

四月

同年

五月

同年

六月

同年

四月

同年

五月

同年

六月

北海道

四・八六

五・一四

五・三七

九一

九八

九五

仙 台

八・一二

八・四一

八・四五

一五二

一六〇

一四九

東 京

三七・二一

三七・二七

三七・二一

六九六

七〇八

六五八

名古屋

一三・三七

一三・一一

一三・二一

二五〇

二四九

二三三

大 阪

一五・二五

一五・一七

一五・二〇

二八五

二八八

二六九

広 島

七・三二

七・二〇

七・〇三

一三七

一三七

一二四

四 国

三・四〇

三・四一

三・三二

六四

六五

五九

福 岡

一〇・四七

一〇・三〇

一〇・二一

一九六

一九五

一八〇

合 計

一〇〇・〇〇

一〇〇・〇〇

一〇〇・〇〇

一、八七一

一、九〇〇

一、七六七

別紙二

支部名

支部の地区別販売比率

(パーセント)

支部の地区別販売量

(単位・千キロリトッル)

昭和四十八年

七月

同年

八月

同年

九月

同年

七月

同年

八月

同年

九月

北海道

五・四六

五・六五

五・四五

一〇五

一一四

九九

仙 台

八・五三

九・四六

八・六五

一五六

一九一

一五八

東 京

三七・一〇

三五・四一

三六・六二

七一六

七一六

六七一

名古屋

一三・三五

一二・九六

一二・七九

二五八

二六二

二三五

大 阪

一五・〇三

一四・九九

一五・四〇

二九〇

三〇三

二八二

広 島

七・一四

七・二五

七・〇七

一三八

一四七

一三〇

四 国

三・三四

三・四九

三・四八

六四

七〇

六四

福 岡

一〇・〇五

一〇・八〇

一〇・五四

一九四

二一八

一九三

合 計

一〇〇・〇〇

一〇〇・〇〇

一〇〇・〇〇

一、九三〇

二、〇二一

一、八三一

別紙三

支部名

支部の地区別販売比率

(パーセント)

支部の地区別販売量

(単位・千キロリトッル)

昭和四十八年

十月

同年

十一月

同年

十二月

同年

十月

同年

十一月

同年

十二月

北海道

五・一六

五・一一

四・七四

一〇一・五

九九・三

一〇四・四

仙 台

八・一二

八・二一

七・八八

一五九・八

一五九・六

一七三・五

東 京

三七・二九

三七・〇六

三七・七〇

七三三・九

七二〇・四

八三〇・二

名古屋

一三・〇九

一三・二六

一三・四九

二五七・六

二五七・八

二九七・〇

大 阪

一五・三四

一五・五八

一五・二七

三〇一・九

三〇二・九

三三六・二

広 島

六・九三

六・九九

七・〇一

一三六・四

一三五・九

一五四・四

四 国

三・四三

三・三九

三・三五

六七・五

六五・九

七三・八

福 岡

一〇・六四

一〇・四〇

一〇・五六

二〇九・四

二〇二・二

二三二・五

合 計

一〇〇・〇〇

一〇〇・〇〇

一〇〇・〇〇

一、九六八・〇

一、九四四・〇

二、二〇二・〇

昭和四十九年(勧)第六号

(二) 審決

出光興産株式会社

右代表者 石田正実

日本石油株式会社

右代表者 滝口丈夫

太陽石油株式会社

右代表者 青木繁良

大協石油株式会社

右代表者 密田博孝

丸善石油株式会社

右代表者 宮森和夫

共同石油株式会社

右代表者 森誓夫

キグナス石油株式会社

右代表者 石黒定治

九州石油株式会社

右代表者 伊藤繁樹

三菱石油株式会社

右代表者 渡辺武夫

昭和石油株式会社

右代表者 永山時雄

シェル石油株式会社

右代表者ティー・ディー・ロス

ゼネラル石油株式会社

右代表者 鈴木勲

公正取引委員会は、昭和四十九年二月五日、右の者らに対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第四十八条第一項の規定に基づき勧告を行なつたところ、右の者らがこれを応諾したので、同条第三項の規定に基づき、次のとおり当該勧告と同趣旨の審決をする。

主文

一 出光興産株式会社、日本石油株式会社、太陽石油株式会社、大協石油株式会社、丸善石油株式会社、共同石油株式会社、キグナス石油株式会社、九州石油株式会社、三菱石油株式会社、昭和石油株式会社、シェル石油株式会社及びゼネラル石油株式会社は、昭和四十八年十一月上旬ごろに行なつた石油製品の販売価格の引上げに関する決定を破棄しなければならない。

二 前記十二社は、次の事項を石油製品の取引先及び需要者に周知徹底させなければならない。この周知徹底の方法については、あらかじめ、当委員会の承認を受けなければならない。

(一) 前項に基づいてとつた措置

(二) 前記十二社は、今後、共同して、石油製品の価格販売を決定せず、各社がそれぞれ自主的に決める旨

三 前記十二社は、石油製品の購入量、販売量、在庫量及び販売価格を当委員会の指示するところに従い、昭和四十九年二月以降一年間、当委員会に報告しなければならない。

四 前記十二社は、第一項及び第二項に基づいてとつた措置を、すみやかに、当委員会に報告しなければならない。

事実

当委員会が認定した事実は、次のとおりである。

一 出光興産株式会社(以下「出光興産」という。)、日本石油株式会社(以下「日本石油」という。)、太陽石油株式会社(以下「太陽石油」という。)、大協石油株式会社、丸善石油株式会社、共同石油株式会社、キグナス石油株式会社、九州石油株式会社、三菱石油株式会社、昭和石油株式会社、シェル石油株式会社及びゼネラル石油株式会社の十二社(以下「元売十二社」という。)は、それぞれ肩書地に本店を置き、石油製品の販売業を営む者であり、元売十二社の石油製品のそれぞれの販売量の合計は、いずれも我が国における当該製品の総販売量の大部分を占めている。

二(一)イ 元売十二社は、昭和四十七年十一月下旬ごろ、東京都千代田区所在の石油連盟(以下「石連」という。)会議室で開催した営業担当役員らの会合等において、いわゆるテヘラン協定により、同四十八年一月から原油の購入価格が引き上げられること等に対処するため、石油製品の品目別引上げ額を検討した結果、石油製品の販売価格を一キロリトッル当り、同四十七年十月の販売価格より、次表の引上げ額を目標として、揮発油を除く製品については同四十八年一月一日から、揮発油については同月十六日から、それぞれ引き上げることを決定した。

品目別

引上げ額

揮発油

一千円

ナフサ

三百円

ジェット燃料油

一千円

灯油

五百円

軽油

五百円

A重油

五百円

B重油

四百円

C重油

二百円

ロ 次いで、元売十二社は、昭和四十八年一月上旬ごろ、前記石連会議室で開催した営業担当役員らの会合等において、いわゆるリヤド協定により、同四十八年一月から原油の購入価格が引き上げられること等に対処するため、前記イの石油製品の品目別引上げ額の修正を検討した結果、石油製品の品目別の販売価格を一キロリトッル当り、同四十七年十月の販売価格より、次表の引上げ額を目標として、揮発油を除く製品については同四十八年二月一日から、揮発油については同月十六日から、それぞれ引き上げることを決定した。

品目別

引上げ額

揮発油

三千円

ナフサ

三百円

ジェット燃料油

一千円

灯油

一千円

軽油

一千円

A重油

一千円

B重油

五百円

C重油

二百円

(二) 元売十二社は、昭和四十八年五月十四日、東京都港区所在の日本石油会議室で開催した営業担当役員らの会合において、いわゆるジュネーブ協定により、同年四月から原油の購入価格が引き上げられたこと等に対処するため、灯油等の石油製品の引上げ額を検討した結果、石油製品のうち、灯油、軽油、A重油及びB重油の販売価格を一キロリトッル当り、同年六月の販売価格より、次表の引上げ額を目標として、同年七月一日から引き上げることを決定した。

品目別

引上げ額

灯油

一千円

軽油

一千円

A重油

一千円

B重油

三百円

次いで、元売十二社は、同年六月下旬ごろ、前記石連会議室で開催した営業担当役員らの会合において、前記決定の実施期日について再度検討した結果、前記期日を同年八月一日とすることを決定した。

(三)イ 元売十二社は、昭和四十八年八月二十七日、前記石連会議室で開催した営業担当役員らの会合において、いわゆる新ジュネーブ協定により同年六月、同年七月及び同年八月から原油の購入価格が引き上げられ、同協定により更に同年十月から原油の購入価格が引き上げられること等に対処するため、石油製品の品目別引上げ額を検討し、次いで、同年九月上旬ごろ、前記石連会議室で開催した営業担当役員らの会合等において検討した結果、石油製品の販売価格をキ一ロリトッル当り、同年六月の販売価格より、次表の引上げ額を目標として、同年十月一日(但し、揮発油は同年十一月一日)及び同四十九年一月からの二回にわたつて、それぞれ引き上げること及び同四十九年一月からの石油製品の引上げ額については、今後の原油の購入価格等の動向により修正することを決定した。

品目別

引上げ額

昭和四十八年十月

昭和四十九年一月

揮発油

三千円

三千円

ナフサ

一千円

二千円

民生用灯油

一千円

二千円

工業用灯油

二千円

三千円

軽油

二千円

三千円

A重油

二千円

三千円

B重油

六百円

九百円

C重油

二百円

五百円

ロ 次いで、元売十二社は、昭和四十八年十月上旬ごろ、東京都千代田区所在の出光興産会議室で開催した営業担当役員らの会合等において、前記決定の、同月一日からのC重油の一キロリトッル当りの引上げ額二百円を、四百円とすることを決定した。

ハ 更に、元売十二社は、昭和四十八年十月六日の第四次中東戦争のぼつ発に伴い、産油国が原油供給量を削減すること及び同月十六日から新公示価格制度を採用することを表明したこと等に対処するため、同月二十九日に前記石連会議室で開催した営業担当役員らの会合等においてその対策を検討し、次いで、同年十一月上旬ごろ、前記石連会議室で開催した営業担当役員らの会合等において、前記イ及びロの石油製品の品目別引上げ額の修正を検討した結果、石油製品の品目別の販売価格を一キロリトッル当り、同年六月の販売価格より、次表の引上げ額を目標として、揮発油を除く製品については同年十一月中旬から、揮発油については同年十二月一日から、それぞれ引き上げることを決定した。

品目別

引上げ額

揮発油

一万円

ナフサ

五千円

ジェット燃料油

五千円

工業用灯油

六千円

軽油

六千円

A重油

六千円

B重油

三千円

C重油

三千円

(四) しかして、元売十二社は、前記二の(一)、(二)及び(三)の各決定に基づき、おおむね前記石油製品の販売価格を引き上げている。

三(一) 太陽石油を除く元売十一社(以下「元売十一社」という。)は、自動車用揮発油(以下「自揮油」という。)の市況維持のため、昭和四十八年四月五日、前記日本石油会議室で開催した自揮油の販売担当課長らの会合において、自揮油の販売量を検討した結果、

イ 石連の需要専門委員会で月別に策定した、自揮油の全需要量に百2.5パーセントを乗じた数量から、エッソ・スタンダード石油株式会社及びモービル石油株式会社の販売量として、15.361パーセントを控除した数量を、元売十一社の月別合計販売量とすること

ロ 前記月別合計販売量に、自揮油の販売担当課長らの会合で定めた石連におかれた支部の地区別販売比率を乗じて算出した数量を、同地区別の月間総販売量とし、これをもとに石連各支部において、各支部ごとに元売十一社のそれぞれの販売実績、給油所数、販売量の伸び等を勘案して、元売十一社のそれぞれの月別販売量を決定すること

ハ 前記月別販売量を超過して販売した場合の制裁措置は、石連各支部に一任すること

ニ 前記月別販売量の未達分の翌月分への繰越しは、認めないこと

等を決定したうえ、同四十八年四月から同年六月までの石連各支部別の自揮油の販売量を別紙一のとおり決定した。

(二) 元売十一社は、昭和四十八年六月ごろ、前記出光興産会議室で開催した自揮油の販売担当課長らの会合において、同年七月から同年九月までの自揮油の販売量を、同年九月ごろ、前記出光興産会議室で開催した自揮油の販売担当課長らの会合において、同年十月から同年十二月までの自揮油の販売量をそれぞれ検討した結果、いずれも前記(一)のイからニまでの決定を踏襲することとしたうえ、石連各支部別の同年七月から同年九月までの自揮油の販売量を別紙二のとおり、同年十月から同年十二月までの自揮油の販売量を別紙三のとおり、いずれも決定した。

(三) しかして、元売十一社は、前記各決定に基づき、昭和四十八年十二月まで自揮油の販売数量を制限してきた。

法令の適用

右の事実に法令を適用した結果は、次のとおりである。

元売十二社は、共同して石油製品の販売価格の引上げを決定し、これを実施することにより、公共の利益に反して、我が国における石油製品の販売分野における競争を実質的に制限しているものであつて、これは、独占禁止法第二条第六項に規定する不当な取引制限に該当し、同法第三条後段の規定に違反するものである。

よつて、主人のとおり審決する。

昭和四十九年二月二十二日

公正取引委員会

(高橋俊英 高橋勝好 橋本徳男 呉文二 滝川正久)

別紙一~三〈省略〉

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